絵画との対比で考える

 同じ美術の中の絵画と立体。共通点はいずれも表現であるということ。つまり、それらは、いずれも日常生活の中で実用される、つまり用途を持つものではなく、鑑賞の対象(純粋に見られるもの)であるということである。では何が違うのか、単純にいえば表現の場(フィールド)のが違うということである。空間の中に表現するか、平面の中に表現するかの違いである。

 立体表現をするにあたっての注意したい点としては、なんといっても、その材料の物質性の強さあろう。材料として用いる物質が、絵画における絵具のように、極度に抽象化された物(絵具も実は石などを砕いた粉という意味で物質であるが、通常、そのことには気付かれず、ただの「色」として認識されている)ではなく、日常に用いられる「段ボール」であったり、紙であったりする。つまり、日常性が非常に強く、その材料を加工し、構成して、何らかのテーマを表現しなくてはならないのだが、テーマよりも、材料自体が見えてしまうという失敗を犯しやすい。材料自体がもともと魅力を持っている場合もあり、その場合は、材料自体の印象の強さ、迫力は出しやすいといえるのだが、それだけで見せるのでは、自然界の「山」や「岩」や「老木」の美しさ、凄さと変わらないのであって、それは「作品」の強さとは言えないのである。あくまでも作者がその作品に込めた、作品固有のイメージなりメッセージの強さを見せなくてはならない。。材料として物を扱いながら、物自体ではなく、構成された「イメージ」を見せるということはけっこう難しいことである。
 また、表現フィールドとしての空間も、額縁によって、現実空間とは明確に切り離された絵画のようには、明確な輪郭を持たない。どこからが作品でどこからが、現実世界なのかを明確化すること自体が、作者の仕事となるのである。
 その、表現フィールドとしての空間も、ただの四方八方への広がりではなく、具体的な地球上の空間(重力場)である以上、重力の影響を計算する必要もある。浮遊感を表現したくても、絵画のように、鳥を上手に描けばよいという訳ではない。実際に物は浮かないのだから、物を軽やかに浮いているように見せながら、実際には、強固な構造を与えなくてはならない。




 美術における作品は、常に、物体である。その点は、音による表現である音楽作品や出来事の構成である演劇作品と比較すれば、明確にわかることである。しかし、鑑賞者は単に物体を見るのではない。絵画においては、画面の中に広がるイリュージョンとしての空間の中に作者のイメージを見るし、彫刻においては、物体と空間との関係性の中に作者のイメージを見るのである。もちろん、物体自体として見えないわけではない。ゆえに、美術作品は常に、二重の視線を求めているといえるだろう。