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かつて、日本では、美術を、絵画と彫刻と分類していた。それが、ある時期から平面と立体というように呼ばれるようになった。その用語法の変化にはどのような意味があるのだろうか。
絵画や彫刻は、その長い伝統の中で蓄積された物の見方、感じ方、そして、絵画であれば、絵具のまぜや方乗せ方、彫刻であれば、粘土の盛り方、木の削り方などに関する技術、美学の蓄積、つまり絵画、彫刻の伝統の上に成り立つものである。
それに対し、我が国では60年代から使われ始めた(その元は20年代のバウハウスまで遡るが)平面/立体という言葉は、単に、作品の形が薄っぺらく壁掛け形であるのか、あるいは、立体的で台座や床に配置するものであるということだけしか指示していない。だからといって安易な用語であるという訳ではない。平面、立体には、あえて絵画や彫刻という言葉が持つ伝統を全ていったん断ち切り、前提のない所から再スタートするという決意が込められている。すべての前提を疑い、一旦根本に立ち返ってすべてを再構築しようというモダニズムの意気込みが込められた言葉なのである。もちろん、旧来の絵画や彫刻は、否定される訳でなく、その一部として取り込まれる訳であるが、前提とはならないということである。
それが、80年代頃から、絵画彫刻の名前が復活しはじめた。前提への問いを終えて、伝統の良さを再発見したのか、あるいは、改革に疲れたのか....。たぶん、全ての伝統を疑うことは正しかったが、それらをすべて否定しようという側面があり、それは不必要な行為であったのである。 |
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