○明暗法の理解「描線による面表現」

1、線による面表現の原理
 鉛筆は線的表現から面的表現まで幅広い表現が可能であり、与えられたモチーフや陰影、制作テーマなどにより、様々な表現を使い分けることができる。ただ、面的表現に関していえば、鉛筆の芯の細さを考えてもわかるように、木炭やパステル、筆ほどのことはできない。そういう意味で、基本的には線的表現に適した描画素材であるといえる。線表現である以上は、線の方向性ということに対しては意識的であらねばならない。モチーフを描く時には、モチーフの表面に沿って鉛筆を走らせるのが基本であるといわれているが、そのことの意味について原理的に考えてみたい。

1)立体表現の種類
立体表現にもいくつかの方法がある。
通常、これらの表現を組み合わせて利用する。
輪郭線による立体表現
描線による立体表現
陰影による立体表現
パースペクティブ
(透視図法)
クロスハッチング
明暗法
線表現
面表現

2)クロスハッチングの原理1   点から線へ・線から面へ・面から量へ
線による立体表現においては、2)の、線がたくさん重なることで、線としての性質を失って面になってしまうという不思議な現象を利用しているのである。1)の点が寄り集まって線となるという性質も鉛筆デッサンでは利用する場面がある。タオルのような材質のモティーフを描く時には、点のつながりが線となり、その線の連続で面を表現することもあるからだ。

1)点を並べると線になる
2)線を並べると面になる
3)面を重ねると量になる



3)クロスハッチングの原理2  立体物を見る時の動きを画面上で起こすことで、立体の幻影を起こす

 描線を交差させて面を表現する技法をクロスハッチングと呼ぶが、なぜ、クロス(交差)なのであろうか。その原理は、人間の視線のあり方と関係している。人間が物(立体物)を見る時の行動を、画面上で再現することで、物(立体物)の幻影を起こしているのである。人間が物を見る時には、まず物体の輪郭を確認するように、物体の周囲を視線が動き、次に、面を把握しようと、物体の表面を撫でるように視線を動かす、という手順をふむということが確認されている。クロスハッチングは、それら視線の動きを画面上に再現したものなのだ。画面を見る目は、画面に与えられた線をたどって、あたかも立体物を見るかのような視線の動きをしてしまうという仕掛けなのである。

1)輪郭を確認する
・輪郭だけでも立体は想像できる。
2)視線を縦に移動させて、縦方向の面の動きを確認する
・縦線が入ることで面が垂直であることがわかる。
3)視線を横に移動させて、横方向の面の動きを確認する
・横線が入ることで横向きには丸いことがわかる。
4)視線を斜に移動させて、斜方向の面の動きを確認する
・斜線が入ることで斜め向きにも丸いことがわかる。
5)全部を重ねると、様々な方向への面の動きを表現することができる。
・重ねることで、様々な方向の面の動きがわかる。
 注意しなくてはならないのは、クロスハッチングは、あくまでも立体表現、量体表現のための方法であるということである。それ以外にも、鉛筆デッサンでは固有色や材質の表現をしなくてはならない。安易に利用すると、クロスハッチング技法がそれらモチーフが持つの別の性質の表現と矛盾することも多いのである。
 平面上の立体感というのは、まさしく幻影であり、いわば一種の手品である。クロスハッチングは、すぐれた手品であるといえる。
 手品においては、最後までタネは明かさず、観客の夢を壊さない原則であるが、クロスハッチングという「立体幻影マジックショー」においては、重ねられた線自体はタネであり、それ自体は見せてはならないもの、少なくとも目立たせるべきでないものと言えよう。ただし、タネの公開を売り物としてるマジシャンもいるように、ハッチングの線の「冴え」を積極的に表現要素とする作品も一部にはある。



→次へ


京都アートスクール・Art School of Kyoto
■フリーダイヤル 01208-01209 ■FAX (075)-495-0590
art school of kyoto. All rights reserved. 禁無断転載